「三つの春」
春には三つ、あるのだそうです。
梅の花の咲く春。桃の花の咲く春。そして、桜の咲く春。
普通、春はそんなふうに一歩ずつ近づいてくるのだけれど、
この町には三つの春が同時にやってきます。
福島県三春町(みはるまち)。三つの春と書いて三春。
父は、桜の木を見上げている幼い私に、
この小さな城下町の名前の由来を、そう話してくれました。
今思えばどこまで本当なのかは知りませんが、
何て素敵な名前だろうと私はその時思ったのです。
この三春町には、その名を象徴するように
「三春滝桜」と呼ばれる大きな桜があります。
日本三大桜の中で最後に咲くその巨大な紅枝垂れ桜は、
樹齢千年以上といわれていて、高さは十三メートル。
幹回りは十一メートル。枝張りは二十八メートルもあり、
四方に広がった枝から花が咲く様子は、まるで紅色の滝が流れ落ちるようです。
その美しい花の姿を見るために、
室町時代の殿様は早馬を立てて開花の様子を日々待ちわびたといいます。
私が子どもの頃は、父に連れられて毎年、
馬ならぬ自動車に乗せられて花見渋滞の中、わざわざ滝桜を見に行ったものでした。
駐車場から少し歩いた小高い丘には、桜を間近で見ようと行列に並ぶ人、
お弁当を広げる人、屋台で買ったほうろく焼きをほおばる人。
たくさんの人、人、人。
写真好きな父は難しそうなカメラを構え、
滝桜をバックに私と母の写真ばかり撮っていました。
桜なんて何年経っても、いえこの滝桜はきっと何十年だって変わらないのに
何でわざわざ毎年写真を撮るのだろう、なんて私は思っていたのだけれど。
でも大人になった今、わかる気がします。
この頃はいろいろなことがあり過ぎて滝桜から足が遠のいていたのですが、
今年は、やっと歩けるようになった娘を連れてあの滝桜を見に行こうと思います。
運転係は父ほど写真が上手ではないけれど、父によく似た優しい旦那さんです。
お父さん、もうすぐこの町にも少し遅い春が来ます。
福島の春はこれからです。
福島県三春町:http://www.town.miharu.fukushima.jp/
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