香水
奥さん。
あなたの夫の汗をあつめて、
わたしはポポンSの空き瓶に溜めています。
いっぱいになったら、それを香水のかわりに首筋と耳の後ろにつけて
お店に出ようと思います。
奥さん。あなたは気づくでしょうか。
わたしが中華丼やタンメンを運びながら
お店の中にまき散らしているのは、自分の夫の匂いだと。
でも、やっぱり気付かないかな。
その夫は、今まさにあなたの隣で中華鍋を振っているのだもの。
夕焼けの赤い光が差し込む時間になって
わたしの部屋の中に立ちこめる、
むっとむせるような、あの人の汗の匂い。
あなたも、この匂いが好きなんじゃないかと思うの。
その意味では、あなたとわたしは気があうのかもしれませんね?
いちど、二人だけでどうでもいい会話をしてみたい気がする。
あなたはいつ気付くのでしょう。
定休日のたびに、
パチンコに行くと嘘を言ってでていったあなたの夫の汗を、
わたしが自分のアパートで集めていることを。
それを考えると、ほんとうに、震えるほどに興奮するのです。
ああ、一度、あなたとどうでもいい会話がしてみたい。
そして、何もかもぶちまけてすべてを台無しにする欲求に、
身をこがしていたい。
ポポンSの空き瓶がいっぱいになる、その日まで。
出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/