上島史朗の『僕の見たカンヌ』③
③笑顔すぎるIDカードに要注意。
10月。
各社のカンヌ報告会もひと段落して、
ACCによるカンヌ報告会(@有楽町朝日ホール)も終了。
ひょっとしたら、今がいちばんカンヌから
精神的に遠い時期かもしれません。
そんな中、マイペースにカンヌの日々を綴る当コラム。
いや、きっとこんな時期こそ、
カンヌの熱が必要なのかもしれません。
と、ものすごく強引に、
原稿が遅れていることを肯定的に捉え、第3回です。
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6月15日、いよいよカンヌがはじまった。
朝食もそこそこに会場へ向かう。
最初にするのはIDカードの登録作成。
これがないと、何も始まらない。
登録に必要なのは、事前にWEB登録した時の出力と本人確認用のパスポート。
(2年前に勝浦さんが忘れてホテルまで戻ったのがこのパスポート。
いや、これが意外と忘れそうになるものです)
IDカードには自分の顔写真が入る。
そして、どうやらこの写真は事前登録もできるらしい。
お気に入りの自画像や、パブリックイメージが決まっている人は
写真を事前登録することをお勧めします。
僕はというと、カンヌが始まったことが嬉しすぎたのか、
登録係のお姉さんの「Smile please ♪」に応えすぎたのか、
満面の笑みを通り越して、クシャおじさんみたいな顔で写ってしまった。
このIDカードがないと、会場に入れない。
どのセミナーにも参加できない。
アワードにも参加できない。
Garaにも参加できない。
だから、僕はこれから1週間、このクシャおじさんを
首からぶら下げつづけなければいけない。
みなさん、繰り返しますが
WEBで事前に自画像登録しておいたほうがいいですよ。
同僚のSさんを案内しつつ会場を一周。
一通り歩いたところでWiFiの強度を調べてみる。
検索をかけると「Cannes Lions 2014」のWiFiが見つかった。
ログインIDを求められるので、IDカードに記載された数字を入力して接続。
3年前は、5分おきに途切れる不安定なWiFiだったが、
今回は速度も繋がりやすさも格段に改善されていた。
もっとも、初日でまだ人の数が少ないからかもしれない。
初日に登録をすると、パンフレットやイベント、
セミナーの案内がぎっしり詰まったカンヌ公式バッグがもらえる。
というか強制的に渡される。
今年は厚手の帆布でできたトートバッグだった。
(ちなみに3年前はショルダーバッグだった。)
これが重い。3~4kgぐらいあるだろうか。
会場内は広く、アップダウンもあるので、このバッグを掛けながら
1日過ごすとそれだけで余計なエネルギーを消費する。
なので、お昼のタイミングでホテルに戻ってバッグを置きに行くといい。
(こんなどうでもいいTIPSを紹介しているコラム、おそらく世界中でここだけだろうな・・。)
3年前は、バッグの中にはOpening/Closing Garaのチケットが入っていた。
だから絶対無くしちゃダメだったのだけれど、
今年のカンヌはIDカードがあればOKになっている。
そして、セミナーやスクリーニングのプログラムは紙ではなく、
公式App「Cannes Lions」にすべて載っている。
早速、今日のスケジュールを見てみる。
初日のセミナー、スクリーニング、ワークショップを数えてみたら38あった。
1週間ではなく、1日に38コマ。
すべて参加が不可能なのは当然だとして、まだ初日である。
ちょっと飛ばし過ぎなんじゃないか、カンヌよ。
まさかと思って、翌日のコマ数を数えてみたら68あった。
なるほど、紙のスケジュールが見当たらず、APPになる訳だ。
紙にしたら新聞のテレビ欄を縦に伸ばしたようなものになってしまう。
これだけの数のイベントが同時多発的に開催される中、
どの情報が自分にとって価値があるか判断して、参加して、
自分なりのコンテクストを見つけ出す。
そんなスキルが、カンヌには必要になってくる。
というか、前のめりに過ごしているうちに、自然とそうなる気もする。
行きたいセミナーも数あるけれど、
まずはスクリーニングをいくつか回ってみる。
3年間に初めてカンヌに来た時、勉強になったのは、
部門を問わず、ビデオエントリーのスクリーニングをひたすら見たこと。
ショートリストに入る前のエントリービデオを丸1日見ていくと
本当にいいものと、本当にダメなものがはっきりわかる。
エントリービデオは長尺だから、
ダメなものが1時間ぐらい続くと拷問に近くなる。
そしてその年、いくつものライオンを獲った「American Rom」は、
玉石混交のスクリーニングの中でも
ちゃんと目立って、ちゃんと可笑しかった。
あの時のスクリーニング会場は、
Auditorium Kという4Fの隅っこに位置する小部屋だった。
(閉館してしまった渋谷のシアターNと同じぐらいの大きさ。
といえばわかりやすいでしょうか。いや、わかりにくいですね。)
この会場にほぼ1日篭っていたことを思い出す。
あの時はこの会場を勝手に「俺たちのK」と呼んでいた気がする。
しかし、プログラムをいくら調べても、
フィルム以外のスクリーニング会場が見当たらない。
穴のあくほど調べたら、今年はフィルム、フィルムクラフト、
チタニウム&インテグレイテッド以外のスクリーニング会場が
設定されていないことがわかった。
どうやら、作品数も多く時間がかかるからだろうか、
ショートリストに入る前の作品は、
地下の各部門のブースにあるPCで各自で見てくれということらしい。
なんというか、カンヌまでやってきて、
地下の据え置きPCでカチカチとクリックしながら
世界の仕事を見なきゃいけないのかと思うと、ちょっとクラクラしてくる。
こうなると本当に、東京にいるのと変わらないじゃないか。
みんなで1つのスクリーンに集中して、
世界中の仕事を見て、笑ったり、泣かされたり、
圧倒されたり、ヒントをもらったり、深く深く考えたりすること。
横にいる世界中の仲間たちがどんな反応をするのか、
自分はその中でどう感じるのか、そういった空気まで体験できるのが
カンヌのいいところなんじゃないか、と思う。
そして、自分の仕事はどう見られてるのか。
Adfestでは自分たちの仕事がスクリーニングで流れた時に、
会場からすすり泣きが聞こえてきてドキドキした。
そんな経験、フェスティバルじゃないとできない。
地下のブースに並んでいるPCは便利だし、
ヘッドホン完備で静かに鑑賞できるけれど、
僕がやりたいのは鑑賞じゃない。
体験であり、参戦なのだと思うのです。
と、初日からプスプスと燻った不満を抱えたまま、
アジアの若造の心の声などまったく届かないところへと
カンヌはぐいぐいと進んでいくのでした。
そして、自分のエントリーした仕事がどうなるのか、
そのドキドキを胸に秘めながら、熱狂の日々は幕を開けたのでした。