岩崎亜矢 2014年11月9日

1411iwasaki

「おまえどこにいくんだよう」

         ストーリー 岩崎亜矢
            出演 地曵豪

北向きのベランダは悲しい。
意気揚々とハーブの鉢植えを買って帰り、
大事に育ててもいつのまにかしおれている。
太陽の光がすこし足りなかったの、と訴えるその姿は、
ばあちゃんのしなびたおっぱいを思い出させる。

いつも何かが足りない。

最初は、屋上につくられた小さな部屋に住んだ。
現実的じゃない風景が気に入っていたけれど、
なんせ夏は暑かった。
家をちょっと歩くだけで、だらだらと汗が滝のように流れた
(その家にいる間に、1.5キロ痩せた)。

次の家は、顔をあわせたこともない隣人の、
朝だろうが夜だろうがお構いなしに響く騒音のため、
1年も経たぬうちに引き払ったので、あまり思い出がない。
その後も雨漏りと格闘したり、ゴミ出しで揉めたりと
なんやかんやと問題が起こり、
そのたび転々と引っ越しをくり返した。

この部屋を見つけたのは、半年前の冬のこと。
四角いかたちの部屋が2つ。
間取り図を見た時、まず使い勝手がよいことを悟った。
アパートに植えられた、色とりどりの小さな花たち。
大家の几帳面で真面目な性格がうかがえた。

今までは鉢植えのことで思い悩む以上に
あれこれと振り回され続けたので、
「北向きのベランダ」、それは、
幸せな悩みだともいえよう。
いやいや、あるいは家の問題なんかではなく、
やはり、この僕のせいなんだろうか。

楽観的すぎて、将来に不安を感じる

小さなことを気に病むその性格にも我慢ができない

半年前に別れた彼女に、そう指摘された。
いやはや、ひどい言われようである。
引っ越しをすれば、
当面の問題が片付いたような錯覚を得られる。
これは手っ取り早い現実逃避と言われれば、
まあ、その通りだ。

半年前から置きっぱなしの、
まだ解いていない段ボールにふと目が行く。

おまえ次はどこにいくんだよう

段ボールのなかにいれた、
つまりは今すぐ使わないがらくたたちが声をあげる。
二段目の箱には、あの彼女から
もらった服も入っていただろうか。

この果てしのない引っ越しの旅の最後は
一体どんな風景で終わるのか。
時代がどんどんと巡っていっても、
どこかの街の、相変わらずサイズ感の変わらぬ部屋で、
こんな風に段ボールを眺めているのか。
その想像は、僕をちょっとひやりとさせる。

とりあえず、南向きのベランダの部屋を探しにいこうか。

出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/



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