ことばとつばさ
*
ことばは つばさに 憧れていた
わたしに足りない なにか
失われた 奪われた からだの一部のように
取り返しのつかない 忘れもの
ことばは ときどき 空を見上げる
それとも かなわぬ恋 なのだろうか
**
つばさは ことばに 嫉妬していた
ぼくはただ 飛ぶだけさ
それを自由と呼ぶのも ただの比喩だ
高く低く 東へ西へ 飛べない空はない
山脈(やまなみ)を越えて 海も渡ってみせよう
それだけが ぼくにできることだから
*
ことばは ときどき 自分を恥じる
一方的に しゃべった後で
突然気づく その虚しさに
道に迷った ドライバーのように
ことばは 孤独を 思い知ることになる
ことばなのに と 自分を恥じる
つばさよ
あなたはきっと ないでしょう
目的地を間違えたり
そんな自分を 恥じることなど
**
A地点とB地点には 最短距離がある
ぼくは その数学を証明する
それは 間違いなく
それを 間違えることはできない
それが 数学だから
飛ぶことだから
ことばよ
なりたいですか 数学に
間違えない 正しさに
ぼくは あなたの不確かさと
曖昧さに 嫉妬するのです
むしろ
*
わたしは ことばは
どうしてこんなに 情けないのだろう
すれ違う
届かない
たどり着けない
そればかりか 傷つける
遠ざかる
**
ぼくら つばさは
傷つくこと 傷つけることは
すなわち 死 を意味するのですよ
空を飛べない つばさは
わかりますか
ぼくとあなたは
それほどまでに違う
ぼくはあなたに あなたはぼくに
……なれない
*
いつか 年老いた占い師は言った
昔 ひとつのものだった同士は
どうしようもなく 惹かれあう
永遠に
昔 神様が選ばせたのだから
遠い昔 神様の前で選んだのだから
あなたは つばさを
わたしは ことばを
**
それが 本当のことだとしても
もう 思い出せない
遙かな昔 だ
*
永遠の 生き別れ
**
他人の 空耳
*
ねえ 本当に
わたしたちは 一緒になることが
できないのですか
たとえば どこか
無人島で
**
そんなことが
できると思うのか 本当に
捨て去れるのか
A地点から どこへゆくとも知れぬ
止めどのない 会話を
昼下がりの表参道 にぎやかなカフェの
他愛のない おしゃべりを
恋?
それがひとつになることを意味するなら
ぼくたちが
それを願うのですか
ありうるのですか
比喩ではなく
地上のひとよ
気まぐれな
ことばよ
出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html
石橋けい 03-5827-0632 吉住モータース