成功の秘訣
「成功の秘訣」を手に入れた。
自己啓発の本などではない。アイテムだ。
さっそく「使う」のコマンドを試したが何も起こらなかった。
アイテムの中では、大事なものに分類されている。
そうか、お守りのようなものかと思った。
これは現実ではない。ゲームの中の話だ。
現実ならば何に使っていいのかわからないアイテムなど
捨ててしまったに違いない。
しかし、これはゲームの話だ。
ゲームの私は「成功の秘訣」を手にしてからツキがまわってきた。
戦闘でひどい目に遭うこともなく、レベルが上がった。
立ち寄ったカジノではスロットで大当たりを何度も出し、
ルーレットでも36倍のストレートアップが立て続けに来た。
私は金持ちになった。
カジノのコインをどんどん景品に換えて、
町の道具屋に売ったのだ。
そのうち町に定住し、同じように旅をやめた仲間を集めて
手広く商売をするようになった。
ゲームの私は世界の敵を倒すために旅をする勇者のはずだったが、
少しも強くならなかった。
雑魚敵に倒されては仲間の足を引っ張った。
私の周りから人は去り
せっかく貯めたゲームマネーも減る一方だった。
ところが商売をはじめると
あっという間に町が買えるほどの資金が貯まった。
人も集まってきた。
そのころからだったと思う。
「成功の秘訣」を買いたいという人が現実世界に現れたのだ。
ゲームのアイテムをリアルなマネーで取引する
RMTという言葉を私はこのときはじめて知った。
通常は多くのアイテムが数千円から数万円で取引されているが、
「成功の秘訣」はゼロの数がまるで違った。
よほどレアなアイテムだ。
もしかしたらバグが原因で突然発生した稀有なものかもしれない。
私は宝箱に鍵をかけて「成功の秘訣」をしまい込み、
増え続ける財産を消費するために難攻不落の要塞を築いた。
ゲームの私はすでに強大な力を得ていた。
いくつもの都市を支配下に置き、
世界を我がものにするのも夢ではなかった。
そんなとき、ひとりの若者があらわれた。
若者は私を倒して世界を救うと宣言した。
えっ何?そういうことだったの?
私は笑いが止まらなかった。
成功を極めると世界の敵になるのか。
なるほど、それは人生最大の発見だ。
私は大笑いに笑いながら
この若者をどうやって仲間にしようかと考えていた。