「海が抱く町」
ストーリー 渡部理央(東北芸術工科大学)
出演 地曳豪
海が抱く町、僕が生まれた町。
海は、いつも僕らを見守っていた。
小さい頃から、当たり前のことだった。
海は、たくさんの思い出をくれた。
父の背中を、釣り竿片手に追いかけた。
父と僕が釣った魚は我が家の食卓を飾り、
忘れることの無いおふくろの味になった。
そして、あの日が来た。
まだ雪の降る冬の終わりだった。
みるみるうちに波が押し寄せ、
いつもの景色が、一変した。
海は、大切なものを奪っていった。
流されていく、みんなの記憶。
僕はただ、それを黙って見ていた。
僕の町は目を背けたくなる景色に変わったけれど、
見て見ぬふりをする人は、いなかった。
海岸沿いに見える嵩上げ工事のショベルカーが、
あの日から変わらず、同じ動作を続けている。
寒空の下にはあたたかい町並みがあり、
諦めない心の灯がみんなを照らしている。
生きる力が、芽吹く場所。
僕が暮らす東北は、そんな場所なのだと思う。
挫けそうになったら、帰っておいでよ。
この町を抱く、大きな海が、
君の背中を押してくれる。
東北へ行こう。
出演者情報:地曵豪 http://www.gojibiki.jp/profile.html
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