メッセージとマッサージ
「メッセージとマッサージって似てるよね」
わたしはいつも以上に力をこめて
彼氏の肩甲骨のこりをほぐしながら言った。
自分がこっている人はマッサージが上手というのは本当で
マッサージが得意だったわたしは
彼氏のこりをほぐすのが日課になっていた。
首の右側の付け根がこっている時は
重たい書類を持ってクライアントを回ってたんだろうなと思うし
肩甲骨がガチガチな時には
一日中パソコンに向かって大変だったんだろうなと思う。
マッサージは、メッセージ。
マッサージをすると彼氏のたいていのことはわかると
わたしは勝手に自信を持っていた。
しかし昨晩、神妙な顔つきで彼氏が
「他に好きな子がいる」と言い出したことによって
その自信は、見事に砕けた。
聞けば会社の同じチームの新入社員だという。
こっちは仕事のことをあれこれ心配しながらマッサージしていたけど
実はずいぶんと楽しんでたんじゃないか。
マッサージは、メッセージなんかじゃなかった。
けれどもわたしは泣かなかった。
その代わり、へらへらと笑いつづけた。
彼氏はただひたすら謝りつづけた。
そうしてほとんど寝ないで迎えた翌朝、
出て行こうとする彼氏に
最後にマッサージをさせてと懇願した。
「その子、マッサージ得意?」
「全然」
「そうだよね、若いと肩とかこらないもんね」
そんなどうでもいいことを言いながら
わたしはへらへらとした笑顔で駅まで彼氏を見送り
その足で近所のマッサージやさんに行った。
人にもんでもらうのは久しぶりだった。
おでこのきれいな女性の店員さんがやってきて
首、肩、背骨、腰、ひととおりやさしく手で触れて言った。
「お客さん、何かありました?」
そう言われた瞬間、
わたしの中で何かがぶわりと崩壊した。
怒りが、悔しさが、嫉妬が、絶望が、
わたしの体からあふれでる。
どうしてその子がよかったんだろう。
なぜわたしじゃダメだったんだろう。
「それじゃ始めますね」
肩甲骨に指をぐりぐりと入れられながら
わたしは顔を枕に押しつけて泣きつづけた。