細川美和子 2019年8月11日「花火の火花」

「花火の火花」

    ストーリー 細川美和子
      出演 大川泰樹

江戸時代になり、戦争がなくなり、
使い道がなくなったとき
武器に使われていた火薬は花火に姿を変えた。
不浄なものを払い、
暗闇を照らす火を打ち上げることで、
厄を祓い、死者を悼む、鎮魂の意味をこめて。
そうやって、日本最古の花火大会である
隅田川花火大会が始まった。

やっと平和になったと思ったら
大飢饉と疫病で多数の死者が出て
人々に絶望が広がっていた時代。
倹約を唱えていた徳川吉宗が
両国川で水神祭を開き、慰霊と悪霊退散を祈り、
二十発の花火を贅沢に打ち上げた。

お盆の送り火や迎え火のように
その火は今まで生きてきた人たちと、
これから生きていく人たちの心を
照らしたんだろう。

今でも日本の各地で、
空襲や災害で亡くなってしまった人たちの
霊を悼むために開催されている花火大会がある。

長岡の大空襲で亡くなった人たちの
霊を弔う花火大会を、ビール片手に
打ち上げの真下から見たときには、
音と火花が同時に降りかかってきて、
煙にまみれ、美しいのか恐ろしいのか、
自分がいまどの場所にいるのか、
一瞬わからなくなった。
世界はなんて紙一重なんだろう。

家族や友達と連れ立って、
屋台でりんご飴を買ってもらい、
ワクワクして見上げるはずの花火大会を
子供の頃からどこかいたたまれないような、
物哀しいような気持ちで過ごしていたのは、
そんな由来を感じ取っていたのかもしれない。
花火大会が終わると、町中が緩んだような
ほっとしたような気配に包まれる。

それでも、今年の夏もまた
花火を観にいくんだろう。
終わってくれたことにどこか、
安心するんだろう。

出演者情報:大川泰樹(フリー) http://yasuki.seesaa.net/


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