渋谷三紀 2019年9月8日「恐竜図鑑」

「恐竜図鑑」

    ストーリー 渋谷三紀
       出演 清水理沙

4歳になる甥っ子がいる。
健やかに太くと書いて健太。
その名の通りすこぶる健康に育っている。
いわゆる男子が通りがちな道ではあるが、
去年は電車にどハマりしていた。
飯田橋の駅のホームで
総武線と中央線が行き交うところを
鼻の穴を膨らませて見つめていたのに。
そんなのどこ吹く風、今はすっかり恐竜に夢中だ。

おばさんは自分と同じ本好きな子になってほしくて
せっせと絵本を贈ったのだけど、
ページがヨレヨレになるくらい
読みこんでくれているのは恐竜図鑑だけ。
図書館に連れて行っても恐竜の棚へまっしぐらだ。

スピノサウルス、ヴェロキラプトル、リオプレウロドン。
噛んでしまいそうな長いカタカナの名前も
スラスラ読めるしそらでも言える。
天才かもしれないと思ったりもする。
おばばかと言われようが一向に構わない。

そういえば、いつの間にか
恐竜には毛が生えていたことになっているらしい。
頭や背中に鳥のような毛が生えた恐竜のイラストには、
毎度ギョッとする。
恐竜も日々進化しているのだ。

家では、じいじとばあばに買ってもらった
ビニールの恐竜人形で遊ぶ。
女の子のお人形遊びのように、
お姫様とかお家でパーティーみたいな設定や物語はない。
ブラキオサウルスが植物を食べるとか
ティラノサウルスがそれに噛み付くとか
トリケラトプスがさらに頭突きするとか
プテラノドンが空を飛んでいるとか。
ただそれだけを、よく飽きもせず延々続けられるものだ。
だいたいこちらが根をあげてこう叫ぶ。
「いんせきだ〜。ドッカーン」
恐竜たちはバタバタと倒れ「ひょうがき」がやってくる。
それでも終わらせてくれない時は最後の一手。
「ケンタロサウルスが来た〜」
立ち上がった健太が恐竜たちを蹴散らしてやっと終わるのだ。

最近、福井の大学に恐竜学部ができたらしい。
末は恐竜博士かなんておばさんは無責任に夢を見る。
どこかの大学の先生も言っていたけど
恐竜は科学への興味の入り口だから、
そこから違うことに興味を持って研究したって
いいじゃないかと思ったりもする。
お気に入りの恐竜Tシャツに
恐竜柄の水筒を下げて歩く健太にたずねてみた。

「健ちゃん、大きくなったら何になりたい?」
「恐竜!」

そうかそうか。
ただただ健やかに大きくなってくれたらいい。



出演者情報:清水理沙 アクセント所属:http://aksent.co.jp/blog/


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