督促
あ、もしもし、田中さんのお宅でしょうか。
川添市立市第2図書館の藤村と申します。
深夜に、申し訳ございません。
用件は、もう、おわかりだと思いますが、
当館よりお借りになられました「括約筋しめるだけダイエット」、
貸出期限を大幅に過ぎております。
7か月と1週間、の超過です。
これで、お電話、10回目となります。
田中さん、ひょっとして、若干、意地になっておられますか。
税金で運営している図書館ごときに、返せ返せと指図されるのは業腹だ、
と、こうお考えでしょうか。
いや、きっと、そう、お考えなのでしょう。
じつは、昨日も、そのようなご意見の方が、おられました。
“なんでリクエストした本が入らないんだ。
眠たい仕事するな、この税金泥棒“
という貴重なご意見を頂戴しました。
ま、考え方というのは人それぞれです。
市立の図書館の仕事も、対市民のサービス業という側面は確かにございます。
ですが、田中さん。
借りたものは返す。
それは、人としての道義です。
人としての道義に、納税者も公務員も関係ありません。
事ここに至って…
私も、手立てを講じさせていただくことにいたしました。
ついては、
田中さんに「括約筋しめるだけダイエット」を返却いただけるまで、
30分ごとに、こちらにお電話をさせていただきます。
(しばらく間の後)
田中さんねえ。
わたし、もう、我慢しないことにしたんです。
あっちこっちで、堪忍袋の緒を切る音が聞こえるような世の中でしょう。
それで、相手より早く切ったもん勝ちっていう、そういう世の中でしょう。
そんな風潮に流されてはいけない。
そう思って、今日まできました。
でも、わたしは疲れてしまったんです。
だから、もう、我慢しません。
(突如大きな声で)田中!
だれが税金泥棒だ!
おまえが、泥棒、なん、だよ!
借りパクうんこ野郎!
(しばし間の後)
はっはっはっは…
こんなことをしたら、来年の定年を待たずして、クビになるかもしれませんな。
はっはっは…
それでは、次回は30分後の午前1時10分に、お電話いたします。
出演者情報:遠藤守哉(フリー)