山中貴裕 2023年10月1日「取調室」

取調室

    ストーリー 山中貴裕
       出演  遠藤守哉

刑事さん、何度も言いますけど。
私はやってませんから。
さっきも言いましたけど、
昨日は近所のドトールコーヒーで
モンブラン食べながらコピーを書いてたんです。
はい。コピーライターだからコピーを書くのが仕事です。
もう一度、昨日の朝からの行動を説明しますね。
昨日は土曜日だったけど
締め切りが迫ってるコピーがあったんで
8時に起きてすぐにいつものドトールに行ったんです。
え?土曜なのに働くのかって?
「フリーランスは休日働いてなんぼだろ」って、
なにかの映画でリリー・フランキーが言ってましたけど、
そうなんです。
フリーの人間には土曜も日曜もないんです。
盆も正月もないんです。
頼まれた仕事を締め切りまでに確実に納品しないと
食っていけないですから。
もうこういう生活を10年以上やってますからね、
慣れましたよ。
で、結局、モンブラン食べてコーヒーを2杯おかわりして
2時間ぐらい粘ったけどいいコピーが書けなくて、
気分を変えようと思って店を替えたんですよ。
どこの店だって?
駅の反対側にあるドトールです。
いやいやいや!不自然じゃないですって!
いつもそうなんですって!
私は、ドトールじゃないと仕事できないんですって。
スタバとかコメダとかじゃなくて、
ドトールじゃないと落ち着かないんですよ。まじで。
そこでまたモンブランを頼んで、コピーを。
いやいやいや。ルーティンなんですよ、
ドトールのモンブランが。
甘いモンブランを食べながら苦いコーヒーを飲むと、
いいコピーが書けるんです。
いや、書けないことも多いけど。。。
あそこの店員さんに聞いてみてくださいよ。
ほぼ毎日通ってるから、
絶対、私の顔を覚えてるはずですよ。
いつもモンブラン頼んで、
テーブルにノートをひろげて
鉛筆にぎりしめながら
暗い顔で考え込んでる無精ひげの男なんて、
絶対、気持ち悪いと思うんですよ。
「あのおっさん、なんの仕事してるんだろう?」って、
きっとそう思われてるから。
昨日もお昼過ぎまで店に居たからきっと覚えてますよ。
これでアリバイ成立でしょ?
え?殺されたのも同じコピーライター?
いや、あいつはでっかい広告代理店の
コピーライターだから、
ほんとはコピーなんか書いてませんよ!
ぜんぶ、私らみたいな人間に外注して、
土日はのんびり家族とバーベキューでもしてますよ。
殺されて当然のヤツですよ。
って、いやいやいや!
今のは口が滑ったんです!
刑事さん、そんな怖い顔しないでくださいよ!
ほんとうに、私はただの
しがないフリーのコピーライターなんですから。
はい?被害者はクリエイティブディレクターという肩書きも持ってた?
はいはいはい。
代理店の連中は、
そういう何となくエラソーな肩書きを名乗るんですが、
さっきも言いましたけど、
あいつら実際はなんにも仕事してないですからね。
最近じゃ、
「デジタルなんちゃら」とか
「なんとかトランスフォーメーション」とか
横文字並べて誤魔化してますけど、
実態は何も無い
「空気」みたいなもんですから。
殺されたあいつも、
ほんと、昔から口だけは達者な
詐欺師みたいな人間でしたからね。
きっと騙した誰かに、刺されたんでしょ。
。。。え?
なんで、刺されたって、知ってるんだって?
。。。も、もう帰っていいですか?
今夜もコピーの締め切りがあるんです!
警察に捕まったって言えば、
クライアントも許してくれるかなぁ。。。
はぁ。。。モンブラン食べたい。。。
.


出演者情報:遠藤守哉(フリー)

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