一倉宏 2025年1月5日「あなたのいない一月」

あなたのいない1月

   ストーリー 一倉宏
   出演・動画 一倉宏

それから 数日後の晴れた日に
あなたの家を目指して歩いた
「私の家への道順の推敲」を頼りに
その詩に書かれたとおりに

青梅街道を運動用品店の角で曲がって 
かつての阿佐ヶ谷住宅 いまは
プラウドシティとなった敷地に至る
そのあたりの 十字路の一つを曲がり 
他の一つを曲がらなければいい

あなたの愛読者だったら
きっと尋ね歩いてみたくなるだろう
謎かけ なのに 最終ヒントはない
それも 詩だから あなたらしく

生まれてから ずっと住んでいる
けれど住所は ここではなく
宇宙の片隅と 思っていたという
あなたのふるさとは 宇宙だった
それも やっぱり あなたらしい

だけどね 中年を過ぎた頃から
杉並がふるさとっぽくなってきて
70歳を過ぎてからかな
近所をよく散歩するようになった
2017年の 広報すぎなみ 
あなたの特集号で そう語っていた

そうですか 
うれしいな ぼくもいま 
同じ 善福寺川沿いを
散歩道としています 

そして 模型飛行機を飛ばした
少年の頃から ぼくもまた
同じ この宇宙の片隅で 
暮らしてきました 

きのう 荻窪の中央図書館で
あなたの手書きの
かっぱ かっぱらった
かっぱ らっぱ かっぱらった
を 禁止に気づかず 写真に収めて

それから 商店街で馴染みの
パスタの店に 立ち寄ってみたら
あなたの 追悼セットメニュー
なるものに気づいて 注文して

前菜にパセリとタコのマリネ
パセリとベーコンとオリーブの
ペペロンチーノ
赤ワインをグラス一杯
いただきました

ありがとうございます
谷川俊太郎さん

そして
あなたのいない
1月がやってくる

あの 愛された子犬のいない
はじめての夏のように

息は白く 凍えるばかりの 
まだ寒い冬なのに

それを 新しい春と呼んで
ぼくたちは また
歩き出します

.

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